JR留萌本線の留萌と増毛間16・7㎞がきょう4日で廃線になる。1921年に開通した鉄路は95年で姿を消す。鉄道ファンだけでなく多くの人が別れを惜しみ、テレビから流れるその映像は私たちが普段あまり意識しない感情を呼び起こす。北海道はまた一つ、歴史を刻んだ年輪を失う。増毛駅に停車(写真は、増毛駅に停車中の気動車)

 留萌と増毛間は、殆どが日本海を見ながら進む区間。海が見える路線は今や貴重。特に北海道の日本海側を走る路線はわずかしかない。JR北海道が、この区間を廃止すると表明したのは昨年8月。以来、多くのファンや観光客が訪れるようになった。
 
 鉄路が人々を惹きつけるのは、鉄路そのものが地域の物語を投影しているからだ。地域の誕生、発展、衰退を染み込ませた鉄路は地域で生きる人々の証。物語を奏でる舞台装置としての鉄路は、その地域に住んでいない人たちも惹きつける磁力がある。北海道人気が広がるアジアからも16㎞の物語を体験しに来るほど。
 
 野を走り、山を走り、川を渡る。車体には春夏秋冬の色彩が反射する。朝は白い息を吐くように駅で待ち、夜は黄色いライトで闇を照らす。50年以上、この路線を撮り続けてきた70代のファン(北広島市在住)は、「駅名の看板に高台の灯台を入れて一緒に写すのがポイントでした。車止めも一緒に撮影できるとなお嬉しい」と話す。
 
 惜しむ声が多くても役割を終えた鉄路は延命できない。無理に延命させたらむしろ地域の重荷になってしまうからだ。残すと言うなら、なぜ残すのか――地域の将来をデザインしその地域が想いを共有することが必要だ。新たな物語を紡ぐ糸の役割を鉄路に担わせると。
 留萌と増毛、16㎞の廃線は、同様の境遇にある地域がどう生きるかを投げかけている。それは都会では決して味わえない地域の特権だ。


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