地域に根ざした協同組織の金融機関として信用金庫の果たす役割は、ますます高まってきている。人口減少や地域経済の疲弊は、信金のビジネスモデルを金融仲介機能から新規ビジネスの創造や同業種連携、異業種連携を橋渡しして地域を活性化させ資金需要を生み出していくマルチ仲介機能への脱皮を促している。今年6月末に北海道信用金庫協会会長に就任した杉山信治・旭川信金理事長に、道内の信用金庫の置かれている状況や今後の方向性などについて聞いた。なおインタビューの詳細は、9月15日発行の北方ジャーナル10月号に掲載する。(写真は、インタビューに答える杉山信治会長)

 

Q 信金の置かれている環境は。

 

杉山 デフレが続き、海外から安い商品も輸入され、さらに人口減少社会にもなってきたため北海道の経済環境は非常に厳しい。それぞれの信金は狭いエリアで狭域高密度に営業展開して地域経済を支えてきた。我々信金業界は地域の他に収益源を見つけるようなことはできないので、地域と運命共同体の関係にある。

 

低金利競争で打ち勝って地域に安い資金を供給するのも一つの解決策かもしれないが、そういうビジネスモデルは成り立たない。地域にとって一番大事なことは、金利競争ではない。それぞれの金庫が一定の収益をきちんとあげて、地域の活力のために地域が元気になるような施策を打つことだ。ただ、信金だけでできることには限界があるので、行政、商工会議所と連携しながらそうした施策を推し進めていくことが必要になっている。

 

Q 信金は、転換点に来ているのではないか。職員のマンパワーが今まで以上に要求され、需要=資金の創造をリードしていく「進化型信金」が要求されている。

 

杉山 何よりもまず職員の教育が大切になる。今までの期待される職員像は金融の仲介機能だった。預金を集めて必要なところに資金を貸しつける、そういう機能を果たせる職員であれば何とか期待に応えられた。それぞれの信金の発足の理念というのは、何とかして地域で資金を回すことによって地域を元気にしていくことだった。しかし、現在はお金を回すだけでは地域が元気にならない。今までの手法から一歩も二歩もお客様に踏み込んでいくことが大事だ。信金内部で中小企業診断士などをきちんと育てていき、お客様の相談を親身になって受け止めたり、孤独な中小企業経営者の相談相手にもなれるだけの知識、スキルをもった職員でないとお客様の本当の役に立てない。

 

また、外部の専門家に相談を繋いだり、お客様の情報を一元的に集約管理して販売先や仕入れ先を繋ぐ小規模なビジネスマッチングを行うことも必要だ。
そうした実績はかなり上がるようになってきている。地域金融機関のあるべき姿は、ビジネスの面でそういった支援をしていくことでそこから新たな資金需要が創造していくことだ。

 

Q しかし、一朝一夕には進まない。労多くして実(利益)は少ないのでは。

 

杉山 目先はコストばかりかかって確かに収益には結びつかないと思うが、それでも5年先、10年先を見据えたときに信金がやらなければならないことだ。北海道がそれぞれの地域で元気になるためには、我々の信金の責任は重大だ。地域の企業が我々信金を見る目も変わってきている。地方がこれだけ疲弊してきているので、本当にサポートしてくれる金融機関はどこなんだと――。それに応えられる体制を、信金業界と個々の信金が整備できるかどうか。信金の連帯と協調の重要性が改めて必要になってきている。我々は一金庫では北洋、道銀には対抗できないが、連帯して初めて道内の金融業界の中で北洋、道銀、に対抗できる信用金庫という力が持てる。

 

Q 金融円滑化法が来年3月末に期限を迎えるが、その対策についてどう考えるか。

 

杉山 信金業界は従来からお客様の声を真剣に受け止めて、必要があれば条件変更等は従来からやっていた。法律がなくなれば、円滑化法適用の条件だった実行可能な抜本的計画(実抜計画)の実行率が問題となるが、実行率の落ちている先に対しての経営改善を強めていくことになる。ただ、経営者自ら改善しようという意欲があるかどうかが前提。円滑化法適用企業の経営者に前向きな気持ちを持ってもらうことが、出口戦略の最大の要素になると思う。

 

Q 信金の再編問題についての考え方は。

 

杉山 信金は過去60年とか100年の歴史がある。地域の信頼度も高い。そういう金庫が前向きな合併だからと言って、規模を大きくして店舗の統廃合や人員削減をすることになれば地元に迷惑をかけることになる。それが良いことなのか。それが本当に前向きの合併と言えるのか。おそらく地元のお客様にしてみたら、存続できるのだったら単体で存続してもらいたいと思っているだろう。地域の冠の言葉が信用金庫には付いている。このことの意味は大きい。

 

(杉山会長とのインタビューの詳細は、9月15日発行の北方ジャーナル10月号に掲載する予定)

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