北洋銀行(本店・札幌市中央区)は、女性経営者の異業種交流を目的に設立した「北洋女性ビジネスセミナー」の2016年度第2回会合を2日、札幌市中央区のホテルオークラ札幌で開催した。同セミナーのメンバー45人のうち26人が参加、講師として招かれたクリエイティブオフィスキュー鈴井亜由美代表取締役が『エンタメ×食×観光のマッチング』と題して約1時間講演した。IMG_9606(写真は、講演する鈴井亜由美氏)

 小樽市出身の鈴井氏は劇団に所属していたが、食べられないため半分サラリーマンとして会社勤めをしていた。しかし北海道からエンタメを発信してビジネスにしたいという思いが募り、5年間のサラリーマン生活に区切りをつけ、その退職金でマンションの1室に本社を置いて会社を設立。芸能プロダクション「クリエイティブオフィスキュー」の誕生だ。1992年のことだった。
 
 会社を作ったものの食べられない日々が続く。夫、鈴井貴之氏とともにデパートのハロウィン催事で着ぐるみの格好で登場したこともある。
 転機は96年に放送が始まった『水曜どうでしょう』。番組改変のためワンクール、3ヵ月だけの繋ぎとして始まった番組。鈴井夫妻は企画構成を担当、当時学生だった大泉洋氏が鈴井貴之氏と道内を楽せずツライ目に合う旅を続ける番組だった。それが大当たりしてレギュラー番組になり6年間続く。
 
 鈴井氏は「最初はディレクター2人と鈴井貴之、大泉4人の小グループの収録だった。もし、あの時お金があったらこの番組は生まれていなかった。お金がなくてもアイデア次第で北海道でもエンタメを作ることができる自信がついた」と話す。
 北海学園大演劇研究会出身5人のTEAM NACSとは以前から関係があったが、2000年に彼らはクリエイティブオフィスキューに入社(所属)した。5人は舞台や司会、DJなど何でもやった。「今でこそ彼らは“俳優”と言われていますが、駆け出しのころは何でもやらないと北海道では生きていけなかった。つまりローカルマルチタレントとして頑張った。今、東京で笑いを入れながら話せる俳優は珍しい存在。北海道の経験があるからそれができている」(鈴井氏)
 
 鈴井氏も東京に行くことが多くなり、東京から北海道を俯瞰的に見ることができるようになったという。北海道でしか作れないコンテンツの番組を作ろうと手掛けたのがテレビ番組『あぐり王国北海道』。その後、道東で発行されている季刊誌『スロウ』に刺激を受け、北海道のライフスタイルを提案したいと作ったのが12年公開の映画『しあわせのパン』。洞爺湖町月浦地区をロケ地に選び、撮影で使う食材はすべて生産者から直接入手。家具、食器、ガラス製品もすべて本物を使った。「北海道の価値を伝え、北海道に行ってみたくなる映画にしたかった」(鈴井氏)
 
 映画製作後、鈴井氏は北海道の食にきちんと向き合い、常時伝えていく大切さを感じて道産小麦100%のパンなどを販売する店を札幌市内に出店。また、14年には三笠市のワイナリーを舞台にした映画『ぶどうのなみだ』を製作した。「映画で地域を元気にしたいと思って作った。伝えていくことには価値があると思っている」と鈴井氏は語る。
 食材の宝庫である北海道だが、料理人の成り手が少ないためシェフのマネジメントにも乗り出している。15年9月には丸井今井大通館に北海道の農業、食を伝えていくためのレストランを開店、シェフを招いたトークセッションなども実施している。

「会社を作ってから24年、ここまでくるとは思わなかった。社名のキューは、テレビ局で使うキューと同じで“きっかけ”という意味。きっかけを提供しようという思いで社名にした。エンタメを通して受け取る人が行動に移すきっかけを今後も伝えていきたい」と鈴井氏は締めくくった。
 エンタメを通して北海道の食に関わった同社は、来年地域の魅力をさらに引き出していくため社内に「地域活性事業部」を設立する予定だという。
 北洋女性ビジネスセミナーのメンバーは、鈴井氏の思いを形にしていくことに大いに刺激を受けたようだった。
IMG_9615(写真は、2016年度第2回北洋女性ビジネスセミナーの参加者たち)


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