預金は順調に増えつつあるのに企業の資金需要が低調で貸出金が増えていかない金融機関。最大の稼ぐ力は、貸出金の金利と預金金利の利ザヤだが、金利低下と貸出しが増えないことで利ザヤの縮小=本業の儲けが少なくなるというジレンマに陥っている。IMG_3683(写真は、日本銀行札幌支店)

 こうした環境下でも多くの金融機関は、純利益段階で前年よりも利益を増やしている。利益を押し上げているのが信用コストの減少。倒産企業が記録的に少ないことに加えて金融機関は過去に予備的に計上した貸倒引当金を取り崩して戻り益に計上しているからだ。
 しかし、当の金融機関からでさえこうした低水準の信用コストで済んでいるのは異常だという見方も出ている。なぜ、信用コストが少なくて済んでいるかというと、それは2009年12月から13年3月末まで続いた金融円滑化法によるものだ。中小企業の借入れ金返済の条件変更、新規貸出しに金融機関は積極的に応じることや金融機関も条件変更先の債権分類を変更しなくても良い(不良債権にカウントしなくても良い=信用コストが少なくて済む)という時限立法があったからだ。金融円滑化法が終了した後も、金融当局は条件変更を積極的に奨励、金融機関も一生懸命に条件変更などに応じてきた。
 
 しかし、金融当局の風向きが最近少しずつ変わってきたという。例えば日本銀行。そもそも日銀はリスク管理に厳しい見方を伝統的に持っている。それだけに昨今のように信用コストが少ない状態で継続しているのは異常だと見ている。そのため、この環境下でも引当を増やしている金融機関の事例を紹介したり、引当期間を3期から5期、10期と伸ばし実積率を使って引当率を上げている金融機関、どんな場合でも必ず引当をする金融機関のケースなどを提示したりして、各金融機関に引当の増加を促している。
 
 また、金融庁もすり足で金融監督方針を変えつつあるという。そのひとつが経済産業省の所管する信用保証制度見直し。信用保証制度は債務の80%を原則として保証する制度だが、この保証率を5~8割程度にして借入れを希望する中小企業へ融資する金融機関の審査に厳格性を求める内容。金融円滑化法と信用保証制度によって本来なら淘汰される企業が延命され、経済の新陳代謝が進まずに雇用流動性も生まれにくくなっていることも制度見直しの背景にあるようだ。
 
 強い企業はより強く、弱い企業は淘汰も辞さないのが『アベノミクス』の本質。金融当局の姿勢が金融円滑化法時代とは真逆の方向に振れる時期はそう遠くないかもしれない。


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