道内の主要な企業のトップが転機に立ったとき、どう決断したのかをヒューマンドキュメントタッチで紹介する北海道新聞経済面毎週木曜日掲載の「トップの決断~北の経営者たち」をまとめた単行本が刊行されたことを記念したフォーラムが10日、道新ホールで行われた。紙面で取り上げられた加森観光加森公人社長、ニトリ似鳥昭雄社長、石屋製菓石水勲会長、アインファーマシーズ大谷喜一社長の4人がパネリストとして登場、成長の原動力になった要因や今後の経営戦略を語り合った。
  後半には北大や小樽商大、北海学園の学生らも壇上に上がり、経営者の素顔に迫るトークセッションも行われるなど、約2時間半に亘って経営者4人の素顔が紹介された。会場は約500人が集まり耳を傾けた。(写真は、フォーラムに集まった4人の経営者)

 
 4人の経営者のうち、加森氏と石水氏は親から引き継いだ事業を2代目として大きく飛躍させ、似鳥氏と大谷氏は一代で国内トップ企業を作り上げるなどいずれも北海道を代表する経営者として知られる。
 
 加森氏は学習院大経済学部、石水氏は東洋大経済学部、似鳥氏は北海学園大経済学部、大谷氏は日大理工学部薬学科をそれぞれ卒業、東大や北大、早稲田、慶応といった“有名大学”卒でないところにも共通点がある。
 
 加森社長は、「経営者というものは大体が臆病。従業員や社会のことを考えて失敗したらどうしようと常に思っている。私は、大学時代に柔道をやっていたが、一人の人間が一人の人間を倒すことの難しさを実感した。人間は、一人ひとりそれほど能力に差はない。しかし、百人力、千人力という言葉があるように、『お前のためなら助けてやる』という人が多ければ多いほど強くなれる。トップはそういう個性が必要」と語った。
 
 似鳥社長は、「私自身は頭が悪くて鈍いし、だらしない。良いところがない。自分のことを知っているから、どうしたら会社がうまくいくかをずっと考え続けてきた。自分の出来ないことを社員にやってもらうことで、売り上げや利益ではなく、ロマンとビジョンと志、さらに執念と好奇心で事業を拡大してきた」と似鳥流経営の要諦を明らかにした。
 
 石水会長は、「お菓子屋は大きくすることが良いことではない。全国大手でも当社より利益率は下だ。私は、北海道を代表する高収益の会社にしようと思い続けてきた。ヨーロッパの菓子会社にはそういう会社が多い。人があまり気がつかないようなことに、一生懸命になるのが私の真骨頂」と述べた。
 
 大谷社長は、「大学を出たら事業をすることを念頭に手に職をつける意味で薬学を学び薬剤師になった。独立して事業を起こし若くして株式公開したので脚光を浴びたが、それが心地良かったし、傲慢になっていた面があった。自分ならできるという妙な自信があったところに拓銀破綻。もともと大きな失敗をしていたところに拓銀破綻が起きたわけで、それが事業をもう一度見直すきっかけになった」と拓銀破綻が飛躍の契機になった面があることを示した。
 
 北海道経済の今後については、「道民がもっと北海道に惚れること。北海道の人たちは惚れ方が足りない。だから愚痴が先に出てしまう」(加森氏)、「私は漁師の息子だが、一次産業がもっと活発になって欲しい。例えば毛蟹は漁獲枠があって3ヵ月しか操業できないしコメも減反。このあたりが何とかならないかと思う。また、私は60歳だが今でも道内経済界では若手と言われる。若い経営者を育ててこなかった我々の責任もあるが、次の世代が育っていないのが北海道の現状だ」(大谷氏)、「北海道の限られた市場の中にいたら数店舗しか展開できなかっただろう。本州へ行ったから全国的になれた。北海道だけにとどまっていたら事業は難しい。道内企業は、どんどん津軽海峡を渡って本州で事業を拡大させたほうが良い。北海道の広域分散の土地で耐え忍ぶ経営していると本州でも十分に競争力がある。それにみんな気がつかないだけだ」(似鳥氏)、「本物へのこだわりが大切。お菓子に使うマーガリンとフレッシュバターでは味がぜんぜん違う。良い原料がないと良いお菓子は作れない。本物はやはり本物なので、北海道の本物をどんどんアピールしていくべき。当社は、頑なに北海道だけで販売してきたが、今は関空と成田の免税店においている。今後3年以内にシンガポールにも出る計画がある」(石水氏)と、それぞれ持論を展開していた。
 
 大学生とのトークセッションでは、4人の経営者の学生時代や事業を始めたころの写真がスクリーンに映し出されるなど、素顔も紹介された。フォーラムで語り合われた本音の議論から、4人の個性をひと言で表すとこうなる。
 
「こうなりたい」という理想追求型の加森氏、「こうありたい」と実務追求型の似鳥氏、「こうしたい」と夢追求型の石水氏、「こうする」と魂追求型の大谷氏――4人の経営者としてのカラーはまさに4者4様である。


この記事は参考になりましたか?