日本経済新聞社と日本経済研究センターは19日、札幌市中央区のニューオータニイン札幌2階鶴の間で「景気討論会」を開催した。鶴雅ホールディングスの大西雅之社長、北洋銀行の石井純二頭取、第一生命経済研究所の新家義貴主席エコノミスト、日本経済研究センターの佐々木仁主任研究員の4人が、北海道経済や国内経済、政策要望などについて語り合った。約350人が参加した。20170919_130103(写真は、ニューオータニイン札幌で行われた景気討論会)

 国内景気の見立てについて、大西氏は「実感の乏しい景気回復」と述べた。観光現場では、外国人の活力が旺盛なのに対して日本人の元気がなくなっていることが目立つこと、大企業中心の景気回復で中小企業や庶民には恩恵が及んでいないことを指摘した。
 石井氏も「実感がない」としたうえで「いざなぎ景気の11・5%成長、バブル景気の5・1%成長と比べて今回は1・3%程度の成長で景気回復期間は長くても中身の力強さは低い。2014年4月の消費増税から2年続いた踊り場も影響している」と述べた。道内景気について、石井氏は「昨年の3つの台風による復旧工事や大型経済政策で足元は緩やかに回復しているが、家電、自動車販売が好調なのは10年前のエコカー、家電エコポイントの買い替え需要が中心。個人消費が順調に増えている訳ではない」と分析した。

 新家氏は、今回の景気回復が1%程度の成長率で消費が増えていないことを指摘、「景気回復5年間のうち消費増税後2年間の踊り場は景気後退と捉えるのが妥当」と話した。ただ、回復の実感がないことは「悪いことではない」と話し、その理由として「在庫や設備投資に過剰感が出ていない。企業は必要以上に慎重になっており、国内要因によって経済が落ち込む可能性はない。19年まで戦後最長の景気回復が実現する可能性は高い」と述べた。
 佐々木氏は消費が自律的な回復に至っていないことや成長と分配の好循環が実現していないことによって回復の実感がないことを訴えた。

 人手不足による賃金アップや生産性向上への投資についての質問に、大西氏は「経営現場から見ると消費者の財布の紐は堅い。雇用は逼迫しているが先行きの不安が消えず、賃上げの余裕がない」と語った。
 大西氏は、長寿社会の到来で多くの人たちは下流老人になるのでは、という不安を抱えていること、子供の貧困が先進国で最悪の状態であることなど「不安が日本全体を覆っている」とした。

 石井氏は、中小企業が多い北海道は先行きが見通せないため人件費アップや設備投資に慎重になっていることを示し、「中央と地方の格差はますます拡大するのではないか。潜在成長率の低さはそれを助長している」との見解を示した。

 北海道経済が求める政策についての問いに、大西氏は中小企業の生産性改革が待ったなしの状況にあることに触れ、「とりわけ宿泊業は最も労働生産性が低い。覚悟を持って対応していかなければならない。IT活用など生まれ変わらなければならず、それを後押しする政策を期待したい」

 石井氏は、堤防などが台風豪雨を想定しておらず春の雪解け水を想定して建設されていることから、「基準を見直して新たな社会インフラ整備を進めて欲しいこと、人手不足がとりわけ強い運送業の規制緩和、さらにJR北海道の廃止路線について国に一定の役割を求めたい」と述べた。

 日銀の金融政策についての問いに、新家氏は「今の段階で出口に向かうと円高になってしまう。2%の物価高目標を中長期の目標に変えるのが良いのではないか」、石井氏は「物価目標至上主義に陥っており副作用が大きい。目先の目標でなく中長期的に柔軟に考えるべき」、佐々木氏は「日銀は市場とより丁寧なコミュニケーションが必要」、大西氏は「低金利に慣れてきたので大きく変わるようなことはしないで欲しい」とそれぞれ主張した。


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