地域社会の課題を企業のビジネス手法を使って解決していくソーシャルビジネス(社会起業)が注目されている。農林水産など競争力のある一次資源を持ちながら高齢化や人口減少に直面する北海道には、これまでと違う観点から地域振興策が必要とされている。ソーシャルビジネスは、地域再生の新たなツールになる可能性を秘めている。


12月10日、ソーシャルビジネスの可能性を探るシンポジウムが札幌市のポールスター札幌で開催された。主催したのは公益財団法人秋山記念生命科学振興財団。同財団は、生命科学に関する研究助成を行う財団だが、7年前から市民活動への助成も始め、その一環としてソーシャルビジネスを研究する団体「社会起業研究会」(代表・釧路公立大学長、地域経済研究センター長小磯修二さん)を支援している。
シンポジウムでは社会起業研究会が結び目となって取り組んでいる釧路の水産資源を新鮮なまま東京など大消費地に輸送するプロジェクトが紹介された。
釧路でその日に水揚げされた鮮魚の画像や鮮度情報をITで東京の料亭などに流し、料亭の板前が例えばスマートフォンで目当ての魚を購入すればその日の夜にはお客に提供できることを完成形に置いている。
プロジェクトは日本IBMや全日空グループ、釧路丸水などが参加している。日本IBMの久保田和孝バリューネット事業開発部長は「これまで、板前さんにパソコンを使ってもらい、こうした取り組みに協力してもらおうとしても板前さんは殆ど仕事にパソコンを使おうとしなかった。これが変わったのはスマートデバイスが出現してから。この登場で板前さんも自分たちで簡単にアクセスできる利便性に気づいたようだ」と言う。
実証実験の対象鮮魚として真鱈を選び、当日の朝に獲れて午前7時にセリにかかったものを当日の午後3時に東京料亭に運び入れ、その日の夜に献立に載せて試食会を行った。真鱈は鮮度落ちが早く、刺身で食べられるのもわずかの時間しかない。試食会では、真鱈の刺身や肝なども提供され、高鮮度物流に可能性を見出すことができたという。
プロジェクトでは今後、「浜値よりも高い物流コストの低減」と「時化で水揚げがないときにどうするか」(前出・久保田さん)が課題になるという。
このプロジェクトは、釧路の水産資源に鮮度という付加価値を付けることによって地域再生につなげる目的がある。鱈には安いイメージがあるが、物流とITを組み合わせることで鮮度を保ち新たなブランド商品に育てることも可能だ。
現在、道内の多くの市町村で地域再生の取り組みが進んでいる。地域再生には異質なものを結びつけて新たな付加価値をつけ、商売として地元にカネが落ちる仕組みが不可欠。ボランティアでは地域再生には結びつかないのが現実だ。
ソーシャルビジネスとして企業の持つ技術やノウハウを活用し、それらの企業と地元にカネが落ちる共創のコンセンサスがなければ成り立たない。
前出の小磯さんはシンポジウムをこう締めくくった。
「これまで大学には教育と研究という二つの目的があった。そして今大学には地域貢献、地域に役立つことが求められている。しかし、大学が地域とどう向き合って貢献していくのかは未開拓。既存の産学連携では解決できない課題も数多く、企業と地域を結びつけ社会的課題解決に道筋を付けていくことが大学の新しい使命ではないか」
ソーシャルビジネスを活用して北海道の様々な地域資源を掘り起こしていけば、公共事業に頼らない自立経済への道が開ける。その大きな仕掛けのプラットホーム役として地域の大学は新たな役割を果たすことが求められている。
(写真は、12月10日に行われたソーシャルビジネスのシンポジウム「企業の力と地域社会の活性化」~新たなCSR、地域社会との共生~)

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