IMG_0584 インターネット上で一般消費者向けに健康食品や化粧品を販売する「Eコマース」事業を行う北の達人コーポレーション(札幌市)。木下勝寿社長が進める利益重視の経営は、デイトレーダーのような研ぎ澄まされた感覚に裏付けされている。当面の目標を売上高100億円、社員100人に置くがM&Aによって異業種参入による規模拡大も視野に入れている。木下社長に成長戦略と道内起業家への思いについて聞いた。(写真は、木下勝寿社長)
 
 ――定期会員は7万人を超えていますが、今後は定期会員数10万人が一つの目標になりますか。
 
 木下 定期会員の数値目標は特には決めていない。このあたりは数字のマジックがあって定期購入の会員を増やそうと思えば、定期購入のハードルを下げれば増える。でもそうすれば解約も増える。定期会員数を増やしていくのではなく定期会員からの購入を増やすことに注力している。
 実は、ここ半年くらい新規会員の伸び率は意図的に下げている。データを分析したら会員になってもすぐ辞める比率が高いことがわかったから新規会員の獲得にパワーを注ぐのを抑えているからだ。パワーを使って会員を獲得しても解約が多ければ会員の質の低下に繋がる。新規会員獲得に力を入れるより会員になった方々の購入点数や購入頻度を高める方に注力した方が良いと考え、広告費を3分の2ぐらいまで下げた。それによって会員数の成長角度自体は鈍化しているが、逆に利益率は上がっている。それが中間期の売上げが10%増と低くても利益が70%くらい伸びた原因にもなっている。
 
 ――利益重視の経営ですね。販管費を下げたということですか。
 
 木下 当社は販管費を固定費と変動費に分けている。事務所経費などはほぼ固定しているが、広告費やクレジットカード等の決済手数料は、全て売上げと連動して変わってくる。連動する経費を調整しながら毎月の収益が最適なバランスになるように一日単位で調整できるようにしている。『このやり方はまずいから、月の後半は一旦(広告を)止めよう』など利益から逆算して変動分の販管費をコントロールしていく方法です。若干、デイトレーダーの株取引に近いかもしれないが、利益調整ができるようになってきている。
 
 ――短期・中期計画や将来に向けた成長戦略はどうですか。
 
 木下 利益面は順調に伸びているが、売上げの成長の角度をもっと上げたいので、新商品の開発スピードを上げていかなければならない。中期的には市場を海外にも広げていく。アジアからの問い合わせがかなり増えているので、2~3年後にはアジアマーケットを一定比率まで高めたい。先日、台湾に市場視察に行ったが向こうの平均収入は日本の3分の1とか半分。しかし、化粧品に使うお金は日本と変わらないそうなので期待が持てる。
 
 ――将来的には社長のイメージとして会社規模やネット通販市場に占める地位というのはどうでしょう。
 
 木下 イメージとしては年間売上げで100億円、利益は30~40億円にしたいと考えているが、正直言ってあまり売上げは意識していない。従業員規模は今の2倍か3倍、100人程度まで増やしたい。100億円、100人の規模に達した以降に関しては今のところ具体的なイメージは持っていない。しかし、規模が大きくなればリスク分散に繋がるので将来的には他業種の買収などもあるかもしれない。
 
 ――かなり地に足が着いて一歩一歩地道に進めていく社風に見えます。
 
 木下 基本的にはそうですね。社内は結構イケイケな感じがしますが、あまり目先の売上げなどではなくて継続的に出来る事業をベースに着実に進めていくことを大事にしている。
 
 ――将来的には札幌から東京に本社を移す可能性はありますか。
 
 木下 それはないだろう。私自身は関西出身で札幌生まれではないので、札幌生まれの起業家が東京に出て行く感覚とは全然違う。私は札幌に事業の拠点に置くために来たので、なぜまたわざわざ東京に行かなければならないのかという考えを持っている。もっとも人材やマーケティングの必要性から仕方なく行かざるを得ない可能性はなきにしもあらずだが…。
 
 ――札幌は御社のような業態では事業拠点としてメリットはありますか。
 
 木下 そうですね、札幌の経営環境はトータルを見ればバランスが良いと思う。もちろんデメリットも沢山あるが、東京の経営者は情報が沢山あってもそれを生かしきれていない面もある。東京は情報が溢れているから取捨選択ができないのがデメリットではないか。例えば私たちが東京のセミナーに参加しようと思ったら時間もコストもかかる。そうすると厳選して参加し、絶対何かを掴んで帰ろうとする。首都圏から距離があるのは、そんなに悪くはないと思っている。
 
 ――御社が札幌証券取引所アンビシャス市場へ上場した2012年5月以降、道内企業のIPO(新規株式公開)が出ていませんね。
 
 木下 札幌の同規模のベンチャー経営者に聞くと『上場を考えたこともない』という人が大半。私にはそのことが信じられない。『上場を考えなかったことがない』というのが私の正直な気持ちだった。本気で上場しようと思うかどうかは別として、札幌の起業家は意識もしたことがなかったという人がすごく多いので、『なぜ』と強く思う。
 
 ――実際に上場して何が一番変わりましたか。
 
 木下 中途採用で応募者の質が格段に変わったことが大きい。それまでは他社で実績ある人はなかなか来てくれなかったが、上場によって知名度が上がり会社としてもしっかりしていると見られ、他社で経験を積んだ優秀な人がU・Iターンなどで応募してくるようになった。採用は30代、40代が増えている。また以前は女性社員、女性管理職が多かったが、最近は男性社員や男性管理職が増えてきた。
 
 ――社長は1人で起業して道産品の通販から始め、挫折経験を経て現在の事業で上場を達成されました。ご自身の経験を踏まえて若い経営者に伝えたいことは?
 
 木下 私は20歳を超えたら起業に年齢は関係ないと思っている。若さを売りにしたら起業家としてはアウトだ。若さを売りにしている間はまだアマチュア経営者だろう。また、起業や何かで成功しようと思った時に友人と一緒にやろうというのは絶対ありえないと思う。これでは全然アドバイスになってないですね(笑)。



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